城アラキによる「始まりのヒト」ライナーノーツ
「ぼくは店をあけたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだきれいで、冷たくて、何もかもがぴかぴかに光っていて……」
 多分これは、バーについての世界で一番有名なセリフである。レイモンド・チャンドラーが「長いお別れ」の中で主人公・フィリップ・
マーロウにそう言わせている。もしあなたが少し大人の酒飲みなら、この言葉の意味が分かると思う。
 少し大人……。そう。バーで大切なのはこの「少し大人」ということなのだ。チャンドラーを気取るならこうなる。バーに子供は出入
りしてはいけない。だが、それ以上に来て欲しくないのは子供の心を忘れた大人なのである。
 黄昏どきの都会。昼と夜とのわずかなすき間。店のドアを押すとまっすぐに延びるカウンターが見える。他に客はいない。バーテンダー
が「いらっしゃいませ」とかすかに微笑みかける。実はバーテンダーもこの瞬間、最初の客に今日1日の幸運を計っている。こんなと
き、不用意に客に話しかけないバーテンダーが私は好きだ。寂しいわけではない。特に辛いことがあったわけでも、逆にはしゃぐほどの
幸運と出会ったわけでもない。幸せですか? と聞かれれば少し間をおいて「まぁね」と答える。今日も多分そんな1日だ。
 1杯目から手間のかかるカクテルを頼むのは気がひける。無難なところでハウスウイスキーを使った水割りを頼もうか。削りたての氷
がダウンライトにキラキラと光りながら、カランとグラスに落ち、静寂の中でバースプーンが回る音だけがかすかに流れ、最初の客のた
めの1杯がゆっくりと作られてゆく。

 大人と子供の分かれ目はどこにあるか。多分、未来への希望より過去への追想が甘く感じられる時からだ。だがその分かれ目は、酒を
グラスに重ねて作るプース・カフェスタイルのように、いつだって曖昧ではっきりしない。
「始まりのヒト」の中にこんな歌詞がある――。
「いったい何のために私たちは今を 追われるように生きているの?」
「誰のためでもなく 確かめる術もない」
「だけど信じたいよ いつかわかるって いつか届くって これでよかったと言い切れるときが来ると」
 グラスごしに、透明感のある大嶽香子のピアノ旋律と白木裕子の歌声が重なると、ちょっとほろ苦く切なくなってくる。それは多分、
若さという未熟さと、未熟ゆえのひたむきさ。「何のために……生きているの?」と、いつか問うことをやめてしまった「少し大人」の
自分がグラスに映っているからだろう。ひとつの曲のひとつのフレーズが、バーの空気を記憶装置へと変えてゆく。

 音大に入学して出会った女の子2人がいつかプロをめざす。どうすればプロになれるのか、そもそもプロとは何なのか、多分そんなことも
知らなかったろう。「25歳の誕生日までにメジャーデビューのきっかけがつかめなかったら音楽活動をやめます」と互いの両親に誓
約書を書いたというエピソードが微笑ましい。半年部屋にこもって自主制作のデモテープを作り、これが認められやがてプロデビュー。
憧れにすぎなかったプロとなって5年。彼女たちも、今「少し大人」という時期なのかもしれない。
 この大嶽香子と白木裕子のユニット「ナチュラル ハイ」をイメージしたオリジナル・カクテルがある(「Bar breath」遠藤篤法・作)。
その名も「ナチュラル ハイ」。レシピはバーボン・ウイスキー(Yellow Rose of Texas)20ml、ピーチリキュール(エギュベル)10ml、
クランベリージュース25mlをシェイクしてからソーダでフルアップ。ハイボールには弾ける炭酸の泡(ボール)が高く(ハイに)上がる
ことからハイボールとも、機関車の信号があがる様子からともいわれ諸説ある。カクテル「ナチュラル ハイ」では気分をハイにすると
いう思いがあるのだろう。ではナチュラルの方はどうか。ピーチとクランベリーのフルーティなイメージをこれに合わせたのだと思う。
 だが、ベースのアルコールがバーボンだからコクも強い。カシス・ウーロンやスーズ・トニックを子供の飲み物と言うつもりはないが、
カクテル「ナチュラル ハイ」は、やはり少しだけ大人の味だ。
 今回のCDアルバムで言うなら、透き通る透明感の中に椎名純平のボーカルが加わることでボディの厚みが増している。これがさながら
野性味のあるバーボンの役割を果たしている。ちなみにカクテルでバーボンという個性を使いこなすのは意外に難しい。だが、カクテル
においても音楽においても、強い個性をあえて加えることが絶妙なバランスを生み出しているのだ。

「ナチュラル ハイ」のピアノは力強いが繊細だ。ノリはいいが実は少し悲しさも感じてしまう。「ナチュラル ハイ」のプロフィール、
好きなアーティストにラフマニノフとあった。「だからなのか……」と素人の音楽ファンは勝手に納得した。ラフマニノフのピアノ協奏
曲は映画「逢びき」や「旅愁」で使われ、クラシックとしてはよく知られている。最近ではオーストラリア出身のピアニスト、デヴィッ
ド・ヘルフゴットの自伝を映画化した「シャイン」で、ラフマニノフが世界一の難曲とされていた。ややミーハーで恥ずかしいが、ラフ
マニノフといえばピアニスト・エレーヌ・グリモーの私はファンだったりもする。ニューヨーク郊外で狼と暮らす美人で繊細なピアニス
ト。そういえば「ナチュラル ハイ」のふたりも、グリモーと雰囲気が似ていないか。強靱さの奥にある壊れやすい繊細さ――。
 1杯の酒と、1枚のCDから流れる曲がさまざまな連想を呼んで止まらない。そして、1杯目のグラスを空ける頃にはきっとこう思える
はずだ。「少し大人」でいることも、そう悪い事じゃないと。


城アラキ

* 出展元: ナチュラル ハイ資料
「ナチュラル ハイ」カクテル
レシピ作成:遠藤篤法(Bar breath)
「ナチュラル ハイ」という女性2人ユニットをイメージして、まず大人の女性としてのユニットであるということ、音楽がしっかり伝わってくるということ、ナチュラルとハイというユニット名に通じる言葉、を想い考えました。
「ナチュラル ハイ」Long
Yellow Rose Of Texas 30ml
エギュベル Peachリキュール	15-20ml
ソーダ	少なめにフルアップ
プラスアルファで	レモンツイストピール、もしくはミント

あまりバーボンを飲んだことのない女性にも親しみやすく、飲みやすい口アタリ、大人の女性に最近流行のハイボールスタイルにもつながっている、ナチュラルな(ピーチ)口当たりのHighBall=ナチュラル ハイ。

「ナチュラル ハイ」Short
Yellow Rose Of Texas 20ml
エギュベル Peachリキュール	10ml
クランベリージュース25ml

以上をシェイク、ショートスタイルのグラスへ。バーボンベースとは思えないフルーティーでナチュラルな口当たり、ついつい何倍も飲めてしまって気分もハイになること間違いないでしょう。その色鮮やかな色とクランベリー特有の甘酸っぱいかつしっかりとした味わい、そしてアルコール度数もある程度高い。 レシピ内容
Yellow Rose Of Texas(バーボン)
その他バーボンでも可
女性があまり口にしないバーボンをあえて選択。ハードな口当たりのイメージがあるが、実は滑らかな口当たりでフルーティーな香りのするものも多い。
バーボンにはJAZZやBLUESなど音楽の逸話も多く、とくに「Yellow Rose Of Texas」の意味する「テキサスの黄色いバラ」とは実在の女性のことであり、同名の楽曲も存在する。
エギュベル Peachリキュールもしくは Rejina白桃リキュール
女性らしさの表現としてピーチリキュール。ナチュラルな口当たりもイメージ。その甘い口当たりは初恋などの意味も含まれる(ナチュラル ハイの楽曲「始まりのヒト」)
ソーダ
読んで時のごとくハイボール、その語源には諸説あるが、今回イメージしたのは「炭酸の泡(玉)が上に揚がっていく様から」。ナチュラルに気分がハイになっていくことと掛けています。
クランベリージュース
その色からイメージするに上品なピンク。
古くから健康効用があるとして親しまれてきたフルーツ、最近では美容にもよくカロリーも低いということから、女性にはもってこいのフルーツ。

原材料逸話
Yellow Rose Of Texas(バーボン)
1858年に作られ、南北戦争中に南軍が愛唱した曲です。
1955年に制作された西部劇映画「拳銃稼業」Night Stage To Galvestorの主題歌として、ドン・ジョージが補作し、ジン・オートリーらが歌いました。フランクリン・ルーズベルト大統領の愛唱歌で同年にミッチーミラー合唱団のレコードがミリオン・セラーになりました。
テキサスの黄色いバラという実在の女性も存在した。
クランベリージュース
クランベリーには、数々の重要な健康効用があります。ネイティブアメリカンは、昔から、頭痛から癌に伴う痛みまで、様々な病気の治療に利用してきました。
今日の研究では、単に体に良い 低カロリーのフルーツということだけでなく、尿路感染症や歯肉炎の予防に大きく役立つことが証明されています。また、心臓病などの病気に対する効果についても研究が進められています。
ハイボール
ハイボール (Highball)とは、スピリッツをソーダ、トニックウォーターなどの炭酸飲料で割ったもの。日本では、ウイスキーをソーダ水で割ったものを一般的に指す。
語源については諸説ある。
開拓時代のアメリカにおいて、蒸気機関車による長距離移動のときに、途中で水の補給のための停車の際、棒の先にボールをつけたものを掲げて合図した。そのときに、ウイスキーのソーダ割りのサービスがあったことから。
イギリスのあるゴルフ場のカウンターでウイスキーを飲んでいた人が、急に自分の打つ順が来たことを知らされ、慌ててそばにあったチェーサーにウイスキーをあけ飲んだところ非常においしかった。そこに、たまたまハイ・ボールが飛んできたから。
炭酸の泡(玉)が上に揚がっていく様から。
その他
●バーボンにピーチなどのフルーツを漬け込んだリキュール
「Southern Comfort」が有名。それに近いカクテルとして考案。

●スカーレットオハラなど
サザンカンフォート(Southern Comfort)とはアメリカ産の、桃を原材料にしたリキュールである。アルコール度は21度。1878年にニューオリンズで作られはじめ、1889年にメンフィスで確立された。
当初はバーボンがベースになっていたが、現在ではスピリッツに桃やレモンなどの果物で風味付けがされている。しかしサザンカンフォート・リザーブというブランド名のバーボンも存在している。
歌手のジャニス・ジョプリンがこのリキュールを愛飲しており、しばしばステージの上にボトルが置いてあったことでも知られている。